みんなに心配をかけさせて、みんなを振り回して。最初からすれば良かったことを、そもそも作りなどしなければ良かったものを。手放したくないからって理由だけで多くを巻き込んでいた。

「......私、“鬼龍”を抜ける」

 続けて、いちばん口にしたくなかったことを告げる。

「もう、“篠原 棗”を――」

 最後まで言い切る前に、綾の手が私の胸倉を掴んでいた。力任せに持ち上げられ、言葉を上手く発せられずに言い切れなかった。
 綾は怒りと悲しみに歪んだ顔で、思わずといったように私の胸倉を掴んでいた。その手は震え、私を見る瞳も揺れている。
 言うなと、口にせずとも目が言っていた。
 私も言いたくなんてなかった。私に初めて家族を教えてくれたのも、穏やかな居場所を教えてくれたのも全部、“ここ”からだった。離れることなんて、したいわけがない。
 ここで泣く訳にはいかないから、口の中を噛んで耐える。綾の手に自分の手を重ねると、ゆっくりと下がる手に、つま先立ちからようやくまともに足がつく。
 誰かを巻き込むことに、これ以上耐えられない。身勝手だと言われても、もう見るのが辛くて私にはどうしても誰かと共にいることを選べない。
 泣くまいとしても、薄らとぼやける視界には3人の言いようのない表情が映る。

「なんでそうなるんだよ......」

 力のない呟きは、ぽつりと涙のように落ちた。
 我が身可愛さしかない責めて欲しいと、そう思ってることを見透かす瞳が私を見ている。