死んではないけれど、眠ったまま。それは果たして生きていると言えるのか。
 私が逃げたせいだと何度も頭に響く声。体から力が抜けていく感覚に、眼前に広がるのは焼き付いて離れないあの日の光景だ。
 あんなことはもうないって思ってたのに、私がのうのうと生きていたせいで、意識が戻らなくなるほどのことをされたなんて......!
 怒りが芯から込み上げ、目の前が真っ暗になる。

「棗? 棗、どこに行くんだよ!」

 綾の焦る声が背中に響き、肩を掴む手で現実に引き戻される。
 困惑と焦燥が彼らの顔に張り付いていた。

「行かなきゃ、行ってあいつを」

「何言ってんだよ!」

「仕方ないじゃん!」

 綾の声に重ねて怒鳴れば、喉の痛みが増して目の奥が熱くなる。
 荒らげた声に静かになった室内は、空気が澱んでいるかのように居心地が悪い。綾の顔を見れず、肩を掴んでいた手にされるがままに振り向く。
 私が遊んでいる期間で、タイミング良く返されるなんてことはない。こうすることで私がどういった行動を取るかあいつには分かっていた。すべての元凶が、「お前が悪い」と笑っている。

「棗......1人で行くなよ」

 抑えた声の中に静かにある怒り。珍しく声に怒りを滲ませる綾に、言葉を返せない。

「総長がまたいなくなって、下のやつらになんて説明するんだよ」

「棗にいて欲しい」

 心葉の余裕のない声も、紘の上辺だけの落ち着きも、いつもとは違っているからかひどく居心地が悪い。