「なっちゃん、僕何もしないよー?」

 何をしれっと言いやがるんだこいつ。
 すっとぼけてふざけたことを吐かす蒼を無言で睨むと、小首を傾げているのがふてぶてしい。確かに顔は可愛いのだが、可愛いからって何でも許されると思ったら大間違いだ。

「そうそう、蒼。アレ、俺らから丸見えだったぞ」

 さっきまで、鬼ごっこしていてたのは東校舎で、ここは西校舎の屋上。窓がない分中まで見渡せるこの造りでは、ここからでも十二分に見える範囲だ。
 なんてことだ。
 押し倒される場面をばっちりと見られていたらしく、玲苑は意地悪にもさらに追い討ちをかける。

「いや〜、棗ちゃんのが見えそうで見えなかった」

 一瞬わからなかったが、レオの視線を辿りその答えに行き着く。反射的にスカートの裾を押さえ、熱くなりそうな頬のままに恨めしく睨めば、「イイね、唆られる」などと瞳を光らせる。
 馬鹿なんじゃないかと思う。こんな顔して中身おっさんかよと罵る胸中を他所に、乾いた音が鳴る。

「はいはい、お話はその辺で」

 手を叩いて無理やり話を割ったのは、黒い髪の男。このカラフルな髪色ばかりが目立つ学校では珍しいその毛色。
 訝しげに見つめれば、微笑みを返されて余計に怪しんでしまうのは色々とあったからだ。

「勝手ですけど、自己紹介させてもらいますね」

 そういうの、結構です。
 知り合いになりたくないばかりに顔に露骨に出ていたらしく、黒髪は苦笑しつつも口を開いた。