「棗、よく聞け! 俺らは遊んでなどいない! とはいえ乱暴にあしらうのは男が廃るだろうが!」

 1人の男がそう言えば、周りの奴らも同調するように神妙な面持ちで頷いている。
 廃ってるのはお前の面目だと言うべきか否か。
 見回りに数人に外に出れば、女性が寄ってくるのはいつもの事とは言え、鼻の下をだらしなく伸ばしている見知った顔というのはきついものがある。
 紘は無口に私の傍を離れず、近付いてくる女性には冷たく舌打ちしたりと、これはこれで女性に申し訳なさがある。
 群がってくる女性たちは夜を纏う者ばかりで、そんな女性たちに連れの男たちはだらしなくもデレデレと翻弄されていることにも気付いていない。
 紘は嫌悪感丸出しのまま上背もあるせいか、凄みが勝って話しかけられることは少ないものの、空気そのものが嫌らしい。
 そんな中、1人の女性が私の髪を触ってきた。

「綺麗な髪ねぇ。でも染めたりすると傷まない?」

 紘が手を上げるのを制し、やんわりと女性の手を退ける。
 彼女たちは彼女たちで仕事をしているだけと理解していても、私とて嫌悪がないわけではない。

「触るな」

 怒りを滲ませたその声に怯み、さっと女性たちが離れていく。夜で生活する彼女たちの危機察知能力は高いらしく、賢明にもそれきり違う客を取りに行った。
 とはいえ、それは私と紘の周囲に限った話であり、依然として鼻の下を伸ばし続ける彼らにそろそろ限界が来ていた。仲間に手を出したくはないものの、聞き分けがないものを口だけで制するのには限りがある。