“狼嵐”には何も告げずにここへ来たが、忘れてくれるだろうかと、ふと思い出してしまう。ほんの一時とも言うべき短い時間しか共に過ごさなかったものの、情なんて簡単に移ってしまうものだと今回のことで学んだ。
 口では拒絶しつつも、嫌いではなかったというのが本心であった。
 蒼の子供っぽさに隠した本心も、倖の苦しみの中に身につけた自衛の敬語も、懐かない猫のようなレオも。
 けれど、修人のことはあまり分からないままだった。いつも私たちから一歩離れて見ていて、混ざることはないけれど私たちを見て時折笑っていたのを覚えている。違うけれど、どこか綾にも似た雰囲気を持っていた。 
 嫌いではなかった、だからこそやはり関わるべきではないと思う。ただの高校生である彼らに、“雛菊”を相対させるなんて出来るはずがない。
 すべてを終えてから、綾たちには修人たちを紹介するのが良いのだ。きっと最初はお互いに敵対心にも似たものを持つだろう。いや、綾たちにとって“狼嵐”なんて敵にも値しないんだろうな。
 そんな夢みたいなことを思ってしまえば、目の前の光景にも菩薩のような心になれる。
 学生にとって夏休みは大切であり、羽目を外すには持ってこいの時期。そんなことは私自身も学生という身分なのだから知っている。

「だからって、女遊びを今しろとは言ってないんだけど」

「棗、俺は棗だけだよ」

 すかさず訂正するのは紘で、彼はこの現状に眉を顰めて嫌悪すら示す。
 羽目を外すことが悪いことではないが、これは少々度が過ぎているだろう。