途端に普段と変わらぬ騒がしさが部屋の中を埋め、柔らかい空気に湿っぽさなんてすぐに居場所がなくなっていく。
 ふと胸を締め付けるのは、仲間という彼らの在り方だった。
 少しの懐かしさに見落としていた傷を見つければ、ようやく決心がついた。小さくとも、それは私がここにいてはいけない理由としては十分だった。
 
「私、そろそろ帰らなきゃ」

 そう呟いて席を立ち、まだ早いんじゃないと言う蒼とレオには笑って嘘を吐く。
 さも何かを思い出したかのように扉に手をかけ、出て行こうとする私に修人の声が呼び止める。

「棗」

 彼はいつもと同じ言葉を私にかける。どんなに断っても、毎度帰り際に送って行くと決まって言うのだ。
 だから私もいつもと同じようにそれを断った。

「棗ちゃん、今日はありがとう」

 倖のはにかむ顔に、私はちゃんと笑って返せたのか自信はなかった。
 頷いて、そして部屋を出る。
 外に出て、肺の中に溜まった空気を出し切るように息を吐く。
 駄目だなと、足元を見れば膝が震えていた。
 もう少し大丈夫かと思っていたのだ。タイムリミットなんて、そもそもそんなにないことは分かっていた。
 やはり、もう気付かれていたらしかった。
 何も知らない彼らを死なせたくはないから。
 離れなきゃ、いけないんだ。





 私はその日から夏休みまでの1週間、学校にも行かず、狼嵐の集まる廃工場にも行かなかった。
 そして夏休みに入っても、私が彼らの前に現れることはなかった。