降ろされたならば、今度は絶対に追い付かれることのないように、全力で逃げようと心に決める。そしてもう、二度と関わってこないように、距離を置き、近付かないようにしないと。

「遅い」

 三人の内の銀髪――玲苑は、呆れたように言った。それに対して蒼は平謝りしながらも、ゆっくりと私を地面に降ろす。
 チャンスだった。さっと振り返り敵前逃亡の姿勢を取る。けれど悲しきかな、右腕が重りとなって私のスタートダッシュを阻害する。
 もちろん腕を掴むのは蒼で、彼が一番近くにいたのだから当然である。彼は至極楽しそうに手を絡めて、囁くように問いかける。

「また鬼ごっこしたいの?」

 無駄に反射神経良いな、と思いつつも首を振る。今の聞き方に蘇る先ほどの光景。その目は鬼ごっこと押し倒すがイコールとして結び付いており、とてもじゃないけど御免被りたい案件だ。
 大人しく――とはいえ、不機嫌にも眉を顰めつつ、“一旦”逃げるのを諦める。
 そう、“一旦”だ。あくまでも“一旦”だ。
隙あらばいつだってここを離れる気満々だ。こういう奴らからは逃げるに越したことがない。

「取り敢えず、座ったら?」

 逃げることを第一に考えるならば、それは立っていた方のが何かと良いのだが、蒼も座ってしまった以上、一人だけ突っ立っているのも間抜けだ。
 蒼からは少しだけ距離を置いて、取り敢えず大人しく座る。もちろん、蒼に対して恐怖心があるとかではないのだが、念のためだ。決して次があるのではという思いからではなく。