その沈黙を破ってまで出たのはそんな問いで、自己保身のために投げた安い言葉だった。
 一瞬言葉の意図を読めないとばかりに眉をひそめた倖は、分からないままであることが正しいことに気付いたのか小さく頷いた。

「そう、それならいいじゃん。それならそれでいいんだよ。それだけでいいに決まってる。難しいことは考える必要なんてどこにもないんだよ。背負うとか、覚悟とか、そんなのない方が幸せだよ。そんなのなくたって、倖は先生の大事な人だし、先生は倖の大事な人のまま」

「――あなたは」

「ねぇ、倖。私はさ、あなたが大嫌いな犯罪者なの。人を何人も殺してここに来た」

 彼が口を挟む隙を与えず投げたのは、いずれは暴かれていたであろう真実だ。
 目を丸くする彼は次第に泣きそうな顔になり、けれど何も言えずに歯を強く食いしばる。

「まぁ人殺しとは言っても、間接的って言うのかな。私が原因で何人もの人が死んだんだけどね。とにかく、私は覚悟とかそういうのから逃げて来た。だから今ここにいるの」

 手元を見ると微かに震えていて、痛む手首から血が流れているような錯覚さえも覚える。けれどそれはどこまで行っても錯覚にしか過ぎず、震える手をもう片方の手で抑え込む。
 怖くて、逃げたくて、ここから一刻でも早く離れたい。いや、どこに行こうとも、ずっと燃えているのだから変わりはしないだろう。