彼はソファへと腰を下ろすなり、深い溜め息をついて背もたれに深く身を預ける。皺の寄る眉間を揉みながら宙を見上げる姿に親父臭いと、失礼ながらも思ってしまう。だが彼は少なくとも副総長としては私のために動いているのだから、多少の申し訳なさがある。
 私は部屋の中に備え付けてある冷蔵庫から適当なものを取り、固く目を閉じる倖に差し出せば気配を察した彼の瞼が持ち上がる。そこには一瞬怒りが揺れたように見えたが、すぐにいつもの微笑みによって掻き消される。
 感謝の言葉とともに受け取った倖は、けれど口を付けることはなくテーブルに置かれた。またすぐに目を閉じて疲労回復に努める彼は、飲み物を飲む余力すらないのかと思えばそれ以上は口を出さずに蒼の隣へと戻る。
 見かねた修人が口を開きかけた時、彼の携帯が鳴り響いた。無愛想な声色で取ったその電話に、彼の雰囲気は徐々に険しくなっていく。

「今から行く。待ってろ」

 そう短く言うと通話を切り、蒼とレオに目配せをした修人は部屋を出て行く。その後を追いかけるようにレオも部屋を出て、蒼は絶対にここから出るなと念を押して行ってしまう。
 残されたのは私と倖だけで、途端に部屋の中は静寂に包まれる。彼と2人きりになるのは初めてで、様子を見れば固く閉じられた目は相変わらずだ。
 寝ているのか起きてるのかさえ分からないから、声をかけることもせずにいると意外にも口を開いたのは倖の方だった。