急に大人しくなる私に、蒼が顔を覗く。

「なっちゃん?」

「……降ろして」

 耳に入るのは自身の冷えきった声だった。
 自身の妄執に取り憑かれ、溺れそうな私は今、果たしてどんな顔をしているのか気になる。
 蒼はそんな私に気付いていなく、もうすぐだから、とやはり話を聞かない。
 そういえば、と脳裏に浮かぶ顔。話を聞かないのは、あいつも同じだった。
 またしても溺れそうになって、手足の先から冷えていくようだ。“仕方ない”とは言わないが、言い訳くらいは赦されると思いたい。
 そんな最低な考えに沈んでいると、蒼が立ち止まる。目の前には屋上への扉。
 蒼の声でどうにか我に返るが、逃げられないようにと未だ降ろされる気配はない。逃げ損なったと、また別の手段を考えようとするが、額に押し当てられた熱にそれすらも阻まれる。

「はぁ!?」

 ご丁寧にもリップ音付きのそれに狼狽える私に、蒼は何の気なしに言い放つ。

「さっきは邪魔が入ったしね。あれ? やっぱり口の方が良かった?」

 どうしよう、もう何を言ってるのかわからない。
 キャパオーバーだ、お手上げだ。
 睨み付ける私を無視して彼はそれじゃあと、躊躇いなしに扉を開けた。一気に風が吹き抜け、眩しさに目を細める。
 関わりたくない、関わらないと決めた私の決意をどうしてこうも無碍にされなくてはならないのか。私の声など届かないとばかりに無情にも、決意の心は粉々に打ち砕かれる。
 外の光に慣れた目に入るのは、三人の男の姿。