いかにも三下ちっくなその物言いに、つまらないと吐き捨てれば大きく腕を振りかぶって向かってくる。力に物を言わせているだけのそれは私に当たることなく、宙を殴るばかりで情けない。
 目の前の男に気を取られているうちに、回り込んだもう1人が私を後ろから羽交い締めにしてきたところで、にやりと男が笑った。

「そのまま押さえとけよ、思いっきりぶち込んでやる」

 腕を振り回していたからか、息を切らせながらそう言う男に凄みなどあるわけがない。
 失格だ、と呟いて足を振り上げる。腕を大きく引いて駆けて来た男の顎をつま先で蹴り上げ、その勢いを殺さぬままに今度はを後ろの男の足を踏み付ける。
 パッと離された拍子に振り向き、握った拳をその頬に叩き込んでやればその場に倒れ込む。まだ呻き声がしているのに対し、横腹につま先を蹴り入れれば意識を失った男。
 あまりにも弱すぎて、ほとんど一瞬のうちに終わったそれ。歯応えのなさに文句を言う気力すら出ずに振り向けば、女性は信じられないと言った顔で茫然としている。
 一般人にとって暴力は日常とはかけ離れた行為だということを失念しており、その表情に少しばかりの申し訳なさを覚える。いくら助けるためとはいえ、女性の前ですることではなかった。

「あー......お姉さん、立てますか?」

 目尻に浮かべた涙が女性の頬を伝い、こくこくと頷くところを見るに私に対しても幾ばくかの恐怖心が窺える。