「やめてっ!」

 人通りの多い方へと戻ろうかとする足を止めたのは女性の声で、切羽詰まったその声音は恐怖が滲んでいる。怯えながらも抵抗をする女性に、男性の荒々しい声が重なる。
 関わることにメリットはなく、むしろデメリットでしかないだろう。
 だがしかし、足は既に声の方へと向いていた。
 綾がいたならば、このような時は絶対に助けに行くだろうなと考えてしまう。他人のことにいちいち首を突っ込んでいたらキリがないと、言ってやればきっと拳骨を落とされるに違いない。
 脳内の綾が小言を言い始める前に、前方にある背中へと声をかける。

「私も混ぜて欲しいんだけど」

 背中を向けていた男3人は振り向き、露骨に威嚇をしたかと思えば、私が女だと分かるやいなやその表情を一変させた。にやにやと、下心をまるで隠す気のないだらしない顔。
 男たちの影から覗く女性の衣服は乱れており、頬をぶたれたのだろうか口の端が切れて腫れていた。恐怖と恥辱に涙目になりながらも、私に逃げろと懸命に目で訴えてくる。
 そんな健気な女性に私は近寄って耳元で囁いた。

「まだガキのようだが、泣かせりゃいい声出そうだな」

「俺が最初だからな」

 下卑た笑みを浮かべる男の手が肩にかかった瞬間、私は裏拳でその顔面を殴っていた。
 突然のことに何が起こったのか分からないのか、鼻が折れて血を流しながら白目をむくのを見送ったあと、ようやく声を上げた。

「おいおいおいおいおい! 何してくれてんだゴルァ!」