「バレてもいいわけ?」

「そんなわけないでしょ。あんたたちがいるなんて思ってもいなかったんだし」

 手すりに手をかけ、体を宙に放り出す。一瞬の浮遊感のあとにアスファルトへと降り立ち、背の高いレオを見上げるかたちで対峙する。
 この姿で話すのは初めてではあるものの、彼には呆れの色が浮かんでいた。

「修人は上にいたこと気付いていた。一瞬視線が上に向いたのが見えたからさ。修人はね、人の気配には敏感なんだ」

 その言葉とともに表情に翳りがさす。けれどそこには違和感がつきまとい、取ってつけたような心配には疑いたくもなる。
 胡散臭い曖昧な表情のまま、レオは背を向ける。

「何があってここに来たのかは知らないけど、バレたくないなら早く帰った方がいいよ」

 忠告と別れを同時に告げる彼が去った後、残されたのは妙な静けさだった。
 少しだけ湿った風が首を撫で、落とした声を拾って流れていく。

「結局、どこまで知っているの?」

 それを問うべき相手はとうにいなくなっているというのに、口に出来なかった後悔が喉を焼く。
 右手首の包帯を取り、ビルの隙間から差し込む僅かな月明かりに照らし出す。露わになるのは無数の切り傷と焼けた肌。
 赤黒く見えるそれは確かに在ったという印であり、刻まれた烙印を消すべく切り裂いた。
 あの日、あの時のことは最早脳裏に焼き付いて離れないというのに、意味を持たせなければ無駄なこれ。
 瞼を静かに閉じれば思い浮かぶ情景は火の粉が焼いている。