背後から聞こえてくるその声は倖と修人のもので、徐々にこちらへと近付いてきている。
 さっき店内でキャップを外したから髪は下ろされており、とはいえ眼鏡は健在だ。遠目からならとちらりと振り返ればやはりこちらへと歩を進めて来ている。
 今すぐにでも駆け出してしまいたい衝動を抑え、足早に人の間を縫って行く。

「おーい、そこの子ーっ!」

 蒼の呼び止める声は間違いなく私を呼んでいるようだが、気付かないフリをしてそのまま歩き続ける。あくまでも一般人である風を装っているというのに、彼らはお構い無しに追いかけて来る。
 さっさと撒いてしまおうと、ビルの隙間へと身を投げる。暗く狭い道を歩く後ろを、声を上げてついてくる彼らに鬱陶しさを感じながら、別の道へと入った途端に助走をつける。ベランダ部分の鉄を掴み、腕力と意地で登って身を隠す。
 数秒してから彼らはやって来るなり、忽然と姿を消した私に驚きの声を漏らす。

「あれ!? 見失っちゃった!?」

「まぁ急に追いかけ回されたら隠れでもしちゃうだろ」

 肩を落とす蒼に私だと気付いているだろうレオがそう言うと、倖は腕時計を見て修人へと促す。

「......戻るぞ」

「えーっ! なっちゃんのそっくりさんはー!?」

「待たせている下っ端が可哀想ですよ」

 逃したことへと不満に頬を膨らませる蒼を倖が諭し、修人が戻り出せばついて行かざるを得ない。彼らが去ったのを見計らい、立ち上がれば下から見上げてくる視線に溜息を返す。