目的のものを手に入れた以上、この場に長居は無用である。彼女に頭を下げ部屋を出て行こうとする中、落とされた言葉を聞こえなかったフリをする。

「死にたがりの面だね、お前は」

 それは嫌に耳に残る言葉であり、本質をつかれたことへの焦りからか足早に店を出る。
 死にたがっているわけではなく、死ななければいけないのだと眉をしかめる。
 自身の落とし前をつけるために、死者への償いをするために。死に価値などないと知りながら、エゴのためにそれを選択したのは私だ。
 私などが普通に生きることを望んでいいはずがない。幸福であったはずの場所へ落とされた劇薬は、他者の命を容易に刈り取っていく。
 押し付けたものを、罪を背負って死ぬことで“あの人”もようやく解放されるはずだ。
 疎まれ、憎まれ、恨まれる。それでも良いのだと、最期の時を待ち望む。

「“あなたがいる世界こそ、最悪に満ちている”」

 いつかの言葉を口にすれば、外気に触れた瞬間に騒音に紛れて形を崩す。最悪こそ私だと、自嘲しながら死なないでくれと祈るしかない。
 私の命をあげるから、死なないで。
 握り締めたUSBメモリに願いを託すかのように目を瞑り、ようやく思考が晴れ始めた頃であった。

「あれ? あそこの子、なっちゃんに似てなーい?」

 無邪気な声色の奥に別のものを孕むその声は、聞き馴染んだ青色の彼のものだ。

「背格好が似ているだけですよ」

「棗は女だ、こんな時間に出歩いたりはしていないだろう」