「ハッ、“犬”にしちゃあよく吠えた。まさに犬死しようってんだね。いいねぇ、その潔さに免じてお前を笑いものにして語り継いでやるよ。――名乗りな、小娘。無謀な犬にも名前くらいあるだろう?」

 彼女は手を下ろし、テーブルに置いていた煙草の箱から手に1本取りだして咥える。ポケットから出したライターで火をつけ、紫煙を燻らせるその目には微かな好奇心を纏う呆れがある。
 私はキャップを脱ぐと、モニターから漏れる光が金糸の髪を照らす。私を見ていた彼女の瞳が驚きに見開かれるのに対し、私は口角を上げて名を口にする。

「――雛菊組系篠原任侠会(ひなぎくぐみけいしのはらにんきょうかい)、篠原 棗。雛菊が隠していた子を覚えている? 私がそれ。これでもまだ、私のことを躾のなっていない犬と呼べる?」


 言葉を失い頭を抱える彼女は、うわ言のようにずっと何かを呟いている。その天秤が何を測っているのかは容易に想像できるが、私は視界の端に映る金色に過去を振り返る。
 私は“雛菊”にいた。
 “雛菊”はとても大きな組であり、国内の組織では二大巨頭の一角を担っている。悪逆非道と言えるほど血に塗れている彼らは裏の世界を牛耳っており、警察も迂闊に手を出せないほどに深いところまで食い込んでいる。
 彼らは害あるものを徹底的に排除することでその座に君臨し続けていて、目をつけられれば日の目を拝めなくなることは裏の世界では常識だ。だからこそ恐怖の対象となり媚びへつらうのだが、そこには虚飾ばかりしかない。