「いらっしゃい、案内するわ」

 女のあとに続いて階段を降り、店内へと入れば薄暗い照明と輝くカウンターが目に入る。女との話を肴に鼻の下を伸ばす男たちを尻目に、奥へと続く扉をくぐると、案内の女は私の頬にキスを落として名刺を尻ポケットに忍ばせる。
 ごゆっくりなどと言って去る女に、やっぱり苦手だなと頬についたであろう紅を拭った。
 パーテーションで隠された2つ目の扉は、店内のBGMが微かに届くのみで独特の雰囲気を醸し出す。躊躇なくその取っ手に手をかけ開けば、中からは煙草の煙が漏れ出てくる。
 その煙たさに目を細めたのも一瞬で、足を踏み入れて扉を閉める。
 中はさほど広くはなく照明の類はもともとないのか、監視カメラの映像を映すモニターの光が怪しく照らしている。モニターを見る背中は女性のようで、片手には煙草があり傍らには吸殻でいっぱいになった灰皿。
 私がさらにもう一歩踏み出そうとすれば、それを拒むようにゆっくりと振り返る女性。

「若いね、若過ぎる。若過ぎるが冷やかしや騙された口でもなさそうだね」

 女性は恐らく4、50代ほどだろうか。こちらを見定めるかのように細められた目は、普通の人ならば威圧的に映るだろうが、その奥には好奇心がうかがえる。
 彼女は煙草を咥えて吸い込み、次いで紫煙を吐き出して挑戦的な笑みを浮かべた。