そこに安堵しながらさらに夜の街の深いところへと足を踏み入れ、キャップのつばから当たりを見て歩く。
 呑み屋とラブホ街は大きな道を挟んで隣り合わせているためか、男女が連れ立ってホテルの方へと消えていく。
 その中で目当ての場所に着くと、そこには1人の女が立っている。ガールズバーが地下へと続く入口に立つ女は、赤い唇を蠱惑的に歪ませて私へポケットティッシュを差し出した。

「あらぁ、随分と可愛い子ね。初めてなのかしら?」

 彼女は私よりも背が大きく、高いヒールまでもが赤い。すらりと伸びる足は程よい肉付きで、引き締まったくびれと対照的に豊満な胸元は大きく開いていて刺激的な服装をしている。

「......物知りな子がいるって聞いたんだ」

 彼女から顔があまり見えないように、ポケットティッシュを受け取る。
 彼女はそう、と手を伸ばしてキャップを持ち上げ顔を覗き込む。かち合う視線はほんの一瞬で、離れる彼女はにんまりと笑って無線で誰かしらに合図を送った。

「あなたすごく可愛いから、働けば相当稼げると思うわよ。適当に引っ掛けるだけで落ちちゃうようなおまぬけさんて、結構多いのよ?」

「いや、遠慮しますよ。私には出来そうもない」

 残念、と心にもないことを言う彼女はきゃらきゃらと笑う。妖艶な女はあまりにも夜が似合うのだから苦手だ。
 他愛もないそのやり取りのあと彼女は下からの指示があったらしく、無線に向かって了解と伝えると私へと向き直る。