教室内の空気は重いものとなるが、他の生徒に口を挟む度胸もありはしない。先生も口を挟む気はないらしく、私たちのやり取りを黙って見守っている。
 そんな先生の態度は中立だと言っているようなもので、どうせならなんとかしてくれと思ってしまう。
 言葉を介さない睨み合いの攻防は、レオの体が間に割って入ったことで終わりを迎える。途端に重かった空気は霧散し、生徒の誰かの漏らす安堵の息に乗せるようにレオは私に背を向ける。

「はいはい、そんなに睨まないでよ修人。気持ちは分からなくもないけれど、あんまり過保護だと嫌われちゃうぞ」

 意外にも私の味方に入ってくれたレオに驚くと、振り向いた彼はウインクをしてくる。感謝はしているものの、イラッとしたことは内緒だ。
 修人はレオの言葉に数秒思案したあと、思うところがあったのか舌打ちをして引き下がる。
 彼はレオへ先に行くように首だけ振ると、向き直り手を差し出してくる。その手の意図するところを汲めずにいると、彼は私の鞄を持ち上げる。

「校門までならいいだろ?」

 机に広げっぱなしであった私のテストを見て鼻で笑うと、そのまま背を向けるのだから慌てて追いかけるしかない。嵐が去ったとばかりに一気に弛緩する教室をあとにした。

「ねぇもしかして見たの!? 人の点数見て笑ったの!?」



 まだ少しだけ不服そうな彼らと別れ、街中へと向かう。制服のままではうろつけないため、適当に服屋で見繕ってコインロッカー代わりにホテルへと入る。