離せ、と力技ではどうにもならないと悟り、目に全てを込めて訴える。口でも聞いてくれそうにないのだから、もうこれしかない。

「なっちゃん、駄目だよ。そういうのは駄目だ」

 彼はそう困ったように言う。
 何が駄目なのか、理解できないそれに一瞬抵抗していた腕の力が弱まる。それを機に変わる視界に、戸惑うよりも先にのしかかる蒼に驚く。
 つまるところ押し倒されていたのだ、蒼によって。
 ぽかんと、空いた口が塞がらない。床に広がる髪を一房指に巻き付けると、彼はぐっと顔を近付ける。
 雰囲気が、変わってやいないだろうか。
 微かに光る青い瞳が、私の心を覗き込むようにして見つめてくる。
 頬に集中する熱によって、そのまま髪を落として伸ばされた指にひんやりとした感覚が伝わる。やはり男の子な骨張った指は、そのまま顎を降って、首筋をなぞらえる。
 声にならない悲鳴が喉の奥で鳴り、息を詰まらせる。

「だからなっちゃん、そんな顔は駄目だって」

 生まれつきこの顔なんだ、悪かったな。
 悪態をつこうにも、首にまとわりつく指によって阻まれて、まともに声を出すこともかなわない。
 両手を頭の上で押さえつけられ、あまつさえのしかかる蒼によって足も動かすことができない。
 耳元に寄せられた口がゆっくりと息を吐き出す。

「誘われたら断れないんだよね、僕」

 甘く、蕩けるような声音に、擽ったさを覚える。
 可愛い蒼はどこへ言ったんだと言いたくなるようなその変貌ぶりに、私は首を振ることしかできずにその手から逃れようとする。けれど、逃がすまいと掴む手の力が増す。痛くはないのは、彼なりの優しさなのだろうか。