受け取り手によって形を変えるそれは、けれど一様に苦しいものなんだろう。
だからこそ、一番の不幸は“それ”すらを忘れて生きること。
――苦しみも悲しみも、痛みも嘆きも全部笑って、あの時は辛かったねと笑って思い出せる時がくるようになるから。忘れちゃいけない。不幸を恐れることなく受け入れるんだ。それはお前がいずれ、より幸福になるための今だから。
それは既にこの世にいない人の遺した言葉で、なんでそれを言われたのかは未だに理解できない。まるで俺が不幸になることを予言するかのような呪いの言葉は、果たして俺を蝕んでいるのだから笑えない。
けれど、頭を撫でてくれたその手を同時に思い出し、憎むことは出来ずにただ疑問だけが空虚な心を蝕んだ。
浮かんでは消えてを無情に繰り返し、今ではないどこかを願ってしまう。
悪夢であれば覚めることが出来ただろうに、そこは悪夢よりもよっぽど悪夢らしい現実だった。
13歳の夏に父は呆気なく他界した。
暑い日差しの下で見上げた空は入道雲を呼んでいて、じわじわと耳に残るのは蝉の声。母の泣き声を聞きたくなくて出た病院の外、漠然とした喪失感に足が沈んで立ち尽くしていた。
父を心から愛していた母は呆気なく狂ってしまい、“母”を捨て“女”に戻ることで過去に戻ろうとした。
毎日毎日化粧を塗りたくり、香水を纏って酒気を帯びた唇で微笑む。
お母さん、と呼べば涙を流して金切り声をあげる母であった女に殴られる。
だからこそ、一番の不幸は“それ”すらを忘れて生きること。
――苦しみも悲しみも、痛みも嘆きも全部笑って、あの時は辛かったねと笑って思い出せる時がくるようになるから。忘れちゃいけない。不幸を恐れることなく受け入れるんだ。それはお前がいずれ、より幸福になるための今だから。
それは既にこの世にいない人の遺した言葉で、なんでそれを言われたのかは未だに理解できない。まるで俺が不幸になることを予言するかのような呪いの言葉は、果たして俺を蝕んでいるのだから笑えない。
けれど、頭を撫でてくれたその手を同時に思い出し、憎むことは出来ずにただ疑問だけが空虚な心を蝕んだ。
浮かんでは消えてを無情に繰り返し、今ではないどこかを願ってしまう。
悪夢であれば覚めることが出来ただろうに、そこは悪夢よりもよっぽど悪夢らしい現実だった。
13歳の夏に父は呆気なく他界した。
暑い日差しの下で見上げた空は入道雲を呼んでいて、じわじわと耳に残るのは蝉の声。母の泣き声を聞きたくなくて出た病院の外、漠然とした喪失感に足が沈んで立ち尽くしていた。
父を心から愛していた母は呆気なく狂ってしまい、“母”を捨て“女”に戻ることで過去に戻ろうとした。
毎日毎日化粧を塗りたくり、香水を纏って酒気を帯びた唇で微笑む。
お母さん、と呼べば涙を流して金切り声をあげる母であった女に殴られる。
