と、そこで嫌な気配が項を刺す。勢いよく振り向けば、青い瞳が細められ、上がった口角はゲームオーバーを告げた。

「見ぃーつけた」

 ホラーか貴様! と内心舌打ちをしつつ、すぐに逃げの体勢へと入る。しかし、それよりも早く伸びた手は私の腕を掴み、そのせいで崩れた体勢のままに引かれる。
 頭を打つ、と衝撃に備えて目を反射的に閉じる。ろくに受け身も取れないのだから、さぞかし痛いだろう。
 ゆっくりと、固く閉じていた瞼を持ち上げる。
 視界に広がるのは天井だ。だが、それよりも私に影を落とす蒼の顔が映り込む。
 倒れるよりも先に蒼によって支えられ、そのまま優しく抱きすくめられた。
 見下げる顔は可愛いという文字が似合うのに、もがこうとも離れないその力強さにやはり男の子だと再認識させられる。女である私にその力に適う道理などなく、抵抗も無駄だとさらに強く抱き締められる。
 どうして今日初めて会った人間に、これほどまでのスキンシップができるのか、まったく理解できず、押し退ける腕も疲れてくる。怒りと羞恥に震える手を、次第にグーへと変えようとする考えが過ぎるが、必死にそれを堪える。殴ってしまうのは容易いが、こんなところでヒントを与えるようなマネはしたくはない。

「なっちゃん」

 吐息が頬を掠め、耳朶に直接触れるように彼は耳元へ寄せる。
 伸びた手が前髪を避け、ゆっくりと頬をなぞっていく。

「顔、赤いけど?」

 それは私を混乱させるには充分だった。
 わけがわからない、と一層激しく抵抗を試みるが、喉を鳴らして笑う蒼により諌められる。