「蒼は?」

 寝ている、と告げる彼の目にはどこか違和感があった。だが嘘をついているわけではなく、ただし本当のことを言ってもいない。
 そう、とだけ返して立ち尽くしていた足を動かせば目を見開くのはレオと倖。
 修人は相変わらず黙したままに、その成り行きを見守るだけだ。その姿勢に今回は甘えることにしようと、赤い瞳がこちらを見極めようとするのに対して見ないふりをする。

「ちょっ、棗ちゃん!? 今蒼に会うのは危険なんだ、怪我をするかもしれないんだって!」

 無視して扉へと手をかければレオの手がそれを阻み、強引にでも止めようとする意志が伝わってくる。
 振り向いて見上げるレオの目は明確な怒りが揺らいでいて、微かに残るのは哀れみだろうか。

「怪我は誰がするものなの? 私? それとも蒼?」

「知られたくない過去は誰にでもあるだろ!?」

「過去を聞いてるんじゃなくて、私は今を聞いてるの。謝罪なら要らない、それは蒼から貰うものだ」

 そう言えば徐々に力が抜け、離された手は切実さだけを残す。
 眉をしかめて託す彼の手を逆に取り、それから微笑んだ。

「......あいつを傷付けないでくれ」

「うん、痛いのは嫌だからね」

 倖と修人も口を出して来ないのをいいことに、私はそのまま部屋の中へと入った。
 扉が閉まると同時に飛来するのはクッションで、避けることなく手で受け止めれば大きな声が私を牽制する。

「来るなっ!!」

 先程のレオとの悶着によって浅い眠りから覚めていたらしい彼は、怯えているのか震えている。