倖はどこからかアルファベットチョコレートを取り出すと、3つほど私へと差し出してくる。
 下というのはそのまま下の階という意味だろう。下っ端の集まるそこにはちゃんと顔を出してはいなく、結局挨拶も出来ずじまいのままである。
 チョコレートを受け取って頷けば、パソコンに向かっていたレオが唐突にこちらへと振り向いた。

「じゃあ俺も行くよ」

 私が頷くのを見てかけられたその言葉に、心意を汲み取れずに顔を見上げる。
 彼は私の手を取り立ち上がらせると、そのまま部屋を出てしまうのだから忙しない。
 無遠慮に掴まれていた手は部屋を出れば早々に離され、けれどその後ろをついて行く。
 時折彼が何を考えているのか分からないことがあるのだ。嘘で塗り固められた本物は、最早どちらが正しいのか分からないところまで来ており、垣間見えた憎悪は果たして気のせいだったのだろうか。
 階下に降りると皆レオに群がるように嬉々とした表情を見せ、レオもまた慕われていることに柔らかい顔を見せる。羨望と憧憬が見て取れる光景に、居心地の悪さを覚えてしまう。
 そんな中囲っていたうちの1人がレオの後ろについてきていた私に気付き、訝しげな目を隠しもせずに指さした。

「レオさん、この美人誰っすか?」

 美人だと評してくれたことには感謝しよう。
 一斉に向けられたのは疑問と敵視の視線で、途端に上がるのは怪訝な声だった。
 誰が目的なのかやら誑かして良い気になろうと思っているだのと、あることないこと言い始めるのには頭にくる。私は被害者であるというのに、私が威を借ろうとしているような言い草なぞ言語道断だ。