「“寵姫”じゃなくて“友達”。私たちの関係はあくまでも対等なんだから、その必要性はないんだよ」

「そうですね。ですが、それは俺たちの間で決めたこと。傍から見ればそれがどのようなものであるかなんて分からないんですよ。俺たちとあなたとの関係が良好に見えれば見えるほど、あなたは俺たちの隙足り得ると認識される。あなたの言う通り俺たちは“友人”ではありますが、他者から見ればあなたは俺たちに囲われた“寵姫”にしか映らないことも承知して欲しいんです」

 倖はそう言うとカップの中のコーヒーを飲み干し、黒い瞳が聞き分けのない子供を諭すものに代わる。
 そう、これは私と彼らがどのような関係を築いてるかではなく、私と彼らがどのように見えてるかの話なのだ。どれだけ友達という形にこだわろうと、他者にその事情は通じることなく一部の情報と目に映る光景によって定義される。
 私と狼嵐が最早どれだけただの友達と言ったところで、それを鵜呑みにしてくれるようなことはないのだと倖は言う。
 握り締めていた拳から力を抜き、諦めたように息を吐く。
 さらりと視界を遮るのはウィッグの偽物の色で、何をしているのかと自身に問いかけたくなる。
 こうなることを予想してなかったわけではないが、それでも早まったかもしれないという後悔が滲み出す。
 どうであれ、まだ帰れそうにないことは確定しているのだから、今日は予定があったのにと呟いて降参の旗とした。

「ここにいるのがつまらないのであれば、下に行きますか?」