であるならば、残された道は一つ。逃げるしかない。いわばそれは戦略的撤退であって、敗走というわけではない。
 余計怪しまれる可能性は高いが、このままずるずる乗せられるのはあまりよろしくない。
 余裕そうにしている玲苑の隙をつき、弾かれたように駆け出して教室を飛び出る。
 こうして暴走族なんかに目をつけられることがあるから女子生徒がいなくなったのではないかと、耐え切れなかったという言葉を思い出したものの時すでに遅し。
 背後から追いかけるのは蒼と玲苑の声。

「蒼!」

「はいよ、まっかせて」

 チラリと肩越しに振り向くと、人々を押し退けて青い髪が揺れている。
 とにかく人を掻き分け、というか向こうが避けていき、一本の道となっていく。もう一度振り向くと、足が速いのか見え隠れする蒼の姿。
 こちらから見えているということは、蒼からしてみれば間違いなく捉えている。さらに私は女であり、その異質性により目立つだろう。そう、わかりやすいのだ。
 手前の階段を一段飛ばしで駆け上がり、さらに蒼と引き離して廊下を走り抜ける。そして反対側の階段のその手前の教室へと飛び込む。
 教室の、廊下からは死角になるだろう場所へと息を潜める。
 次いで廊下に響く、蒼の足音と思しきものが過ぎ去って行く。
 そこで、殺していた息を吐き出すと、強ばっていた四肢が緩んでいく。
 今廊下に出たとして、いつ戻ってくるかわからない以上身動きが取れない。かといってここにずっといるわけにもいかず、どうしたものかと腕を組む。