「今更......」

 そう、今更悔やんだところでもう遅いのだ。
 悔やむ頃にはすべては後の祭りと化していて、私はいつだって遅いのだ。
 遅くて、遅過ぎて、手なんて届きようがない。

「守らなきゃ......」

 呟いて立ち上がれば頭の中はいやにすっきりとしており、鉄の冷たさを忘れようと瞬きをする。
 無力な私に一体何が出来ようと言うのか。きっと、“あいつ”を殺してしまえばすべての清算がつくのだろう。憎くてたまらない、あの日の私諸共に炎の中へと焚べる。
 そうすればきっと、綾たちも私という重い鎖から解放されるのだ。
 ああ、でもそのときは私はもう生きていないだろうと右手首を抑える。

「そのときはそのときだ」

 仕方ないとばかりに呟き階段を降りた。





 失礼します、と一応断ってから職員室の扉を開ける。途端に鼻腔にまとわりつくのは職員室独特のコーヒーの香りで、顔をしかめてから中を見渡す。
 ほとんどの先生はおらず、おかげですぐに深景先生の姿を捉えることが出来た。
 先生の側へと近寄ると、彼の顔にはまだ青い痣が残っていて痛々しく見える。1日で消えるわけがないとは言えど、早く治って欲しいと身勝手にも申し訳なさに言葉を詰まらせる。

「どうしたんですか?」

 人当たりのいい笑みに痣は不釣り合いであった。

「......少し、良いですか?」

 声色から察してくれた彼は、別室へと案内してくれて、職員用の会議室に通される。そこは防音の作りとなっていて、立ち聞きされる心配もないからだと彼は鍵を机に置く。