学校案内など、される気がないうちに先生の遠回りのおかげでされているようなものだ。だが、ここを抜けるにはそれしかなく、咄嗟に思い付いたその案に賭けるしかない。
 彼は顔を赤くしながらも、二つ返事で心良く了承してくれた。

「だから、無理」

 今しがた取り付けた理由だが、これでどうだと玲苑を見返すと、彼は何か考えた後に山本君へと近寄る。
 山本君の肩へと手をかけ、耳元で何か言うと、それまで驚いてはいたものの未だ顔の赤かったそれは、一瞬で青へと塗り替えられる。そしてごめんなさいと謝りながら、教室を飛び出して行ってしまった。
 後に残されたこっちは、どうすることもできずに目を丸くするだけだ。今更呼び止めようにももう足音も雑踏に消えてしまった。

「棗ちゃん、残念だけど彼には用事ができたみたいだよ」

 なんと白々しいことか、しれっと言ってのける彼に何も言い返すことができない。
 彼が一瞬で顔色を変えるようなこととは、一体なんなのか気になるが、取り敢えず山本君に謝れと言いたくなる。
 諦めることなどしない私は教室へと視線をさ迷わせ、誰か、と口にしようとする。けれど言えなかった。顔を真っ青にしながら首を振る姿に、同情してしまったからだ。
 誰だって二の舞はごめんだ。
 ここで授業があるというのは理由にならない。定期的に行われるテストを受け、赤点を回避さえすれば授業など受ける必要はない。
 尤も、このクラスにおいてその授業を受ける者は少ないのだとか。