(りょう)のばーかー」

 熱を持った瞼に掠めた彼の指の背にされるがままになりながら、腫れてしまうだろうと思わず悪態をつく。
 それすらも軽くあしらいながら覗き込む彼へ両手を上げてお願いをするのだ。

「はいはい、棗の仰せのままに」

 彼は仕方ないと口にしつつ、その実嬉しそうにするのだから可愛い。
 体が浮く感覚に彼の首へと手を回してその肩に頭を預けると、彼の心臓の音が子守唄のように聞こえてくる。

「今の棗の家知らないんだけど」

「んー、綾と......一緒がいい......」

 離れたくないと、襲い来る眠気に抗いながら口にすれば、俺もだよと額にキスを落とされた。





 腕の中で寝息を立てて眠ったお姫様を抱えて車に乗り込めば、心配そうに覗き込むのは心葉だった。

「綾、棗になにかあったのか?」

「寝てるだけだ」

 誰よりも過保護な心葉は眉を下げ、棗のウィッグを取ってやると金髪のその髪を愛おしげに撫でる。

「総長がいなくなるなよ......」

 安堵に満ちたその表情に、俺もまた胸を撫で下ろすような気分になる。
 心葉は鬼龍の幹部であり、棗が消えた日は顔面が蒼白になるくらいに取り乱していた。今にも倒れそうになりながら、棗を探すその姿に副総長としてすべてを知っていたことに罪悪感が募った。

「出して」

 運転席に向かって指示をすれば、静かに動き始める車。俺の家に向かうように付け加えれば、進行方向を定めた車は安全を第一にしながらもスピードを上げる。
 車内に満ちるのは彼女の寝息と、見失いかけた背中を掴んだことへの安堵だけだ。