Side翼

株式会社かんざき、本社の社長室。

都会のオフィス街の全面ガラス張りの高層ビルの最上階にそれはある。

取締役社長神崎翼(かんざきたすく)35歳。

昨年、現会長で母親の神崎楓が取締役社長を退任し、新しく息子である翼が副社長から社長職に就任したばかりだった。

そして郊外に出来たばかりの美術館の近くに新しくホテルを建設することになり、それが取締役社長に就任して初めての大仕事となるのだ。

このホテルの新規開業は俺が副社長の時から進めてきた計画だ。
今のところ、特段トラブルなくオープンまで順調に事業は進んでいる。
そして、オープンイベントを企画部と共に計画しているところだ。
このオープンイベントでホテルの評判は左右されると言っても過言ではない。
中途半端な妥協は許されない。

しかし、なんなんだ。
企画部が提案してきた
このイベントの陳腐さは..。

「これが、企画部が数週間かけて
練った企画なのか?
この誰にでも思いつくことが
できるような企画で
君はいいと思っているのか?」

目の前の企画部長は
蛇に睨まれた蛙のように
固まっている。


「一週間以内に練り直してこい!」


「申し訳ございません!
すぐに作り直して参ります!」


俺の怒号に企画部長は半泣き状態で
社長室を出ていった。



コンコン




「失礼します。
なにやら企画部長が
泣きそうな顔で去って行きましたが...」



すると、企画部長と入れ替えで秘書で幼馴染みの立花総司(たちばなそうじ)が呆れ顔で入って来た。


「幼稚な企画書を出してきたから
やり直すよう言っただけだ」

総司はやれやれといったように
大きくため息をもらした。

「社長が社員達からなんと呼ばれているか
ご存知ですか?
泣く子も黙る大悪魔。
社長室に行くと必ず地獄に落ちると...ククッ...」


「総司、お前、今笑っただろ...
別に社員になんて呼ばれようがどうでもいいんだよ。
俺は会社の利益になるかならないかしか興味ない。それに会社の命運は社員の命運でもあるんだ。これくらいで音を上げてもらっては困る。」

強がりでもなんでもない。
俺が社員に好かれようが嫌われようが、
会社になんのメリットにもならないではないか?
本気でそう思ってしまうあたり、
俺は人間としては欠陥があるのかもしれない。


「まあ社長が急に優しくなっても
気持ち悪いだけですが...ククッ」


「きも...?

はぁ...俺にそんな口を叩けるやつは
お前くらいだよ」




総司とは高校時代から付き合いだ。
当時から俺と学年1、2を争うほど成績優秀。

最初は思ったことをズバズバついてくる
総司に腹がたつことも多々あったが
それも慣れてくれば気を遣うこともなく
楽なのだ。

頭もキレて機転も利くから
大学卒業と同時に俺の第一秘書にスカウトしたのだ。
爽やかなルックスに甘いマスク
知的眼鏡で女を虜にしてきたが
結構腹黒いことを俺しか知らない。