一途な敏腕社長はピュアな彼女を逃さない

どうしよう...


神崎さんの手をあんなにも
強く振り払ってしまった...


何故、あんな態度をとってしまったのか
自分でも分からない...


でも、あの手で凪沙さんを触れたと思うと
どうしようもなく嫌だった...


こんなにも嫌な感情が自分の中にあるなんて
自分が自分じゃないみたいだ...


「かよ子さん、顔色が悪いけど大丈夫?」



自分の手を見つめていた私は
一色さんの声にハッと顔を上げた。


「あっ、すみません...
少し考え事してただけなので、大丈夫です...」


私はパッと手を後ろに引っ込めると
自分の気持ちを隠すように、
一色さんに作った笑顔を向けた。


「そう?体調が悪かったら、遠慮なく言ってね?」


そんな私に一色さんは優しく微笑みかけてくれる。


「はい...ありがとうございます...」


いけない...

こんなんじゃ一色さんに心配かけてしまう...

折角、妹さんの誕生日プレゼントを選びに来たのに
こんな暗い顔してちゃダメだ...


私は顔を上げると
ショッピングモール内を見渡した。


「あっ、あそこのお店なんてどうでしょうか?」


私は北欧スタイルの可愛らしい雑貨屋を見つけて
指を差した。

「へぇー、こんな雑貨屋さんにも
トートバックって売っているんだね...」


私の後ろから着いて歩く一色さんは
どことなく緊張した面持ちで辺りを物色している。


あまりこういった可愛らしい雑貨屋さんに
入る機会はないのだろう。


「あの..妹さん、何か好きなものとかありますか?」


私は後ろを歩く一色さんにチラリと目を向けた。


「うーん...
うち猫を飼ってるから猫が好きなことくらいしか
分からないよ...」


「猫ですか...」



私は小さく相槌を打つと
再び辺りを物色し始めた。



そして、私はナチュラルなキャンバス生地に
ネコのイラストが描かれた
トートバックの前で足を止めた。


「これなんか可愛いです...
しかも、同じ猫のイラストのブックカバーまで
ありますよ!」


私はブックカバーを手に取ると
その可愛さに目を輝かせた。


「じゃあ、そのトートバックと
ブックカバー両方買うよ♪」



「えっ?そんなに簡単に決めていいんですか...?」


即決してしまった一色さんに
私は大丈夫なのかと急に不安になる。

「んー、
女の子の好みなんて正直分かんないしな...
それに、かよ子さんが選んだものの方が
妹も喜ぶよ!」


そう言って、一色さんはニコッと八重歯を覗かせて
満足そうに頬笑んだ。

「俺は会計してくるから、
かよ子さんは店内見ていてもいいよ」


一色さんはトートバックとブックカバーを
手に一人レジへと向かって行った。


私はその間に店内をウロウロとしていると
桜柄の可愛らしいペアカップを見つけた。

そして、カップをひとつ手に取る。


このペアカップ可愛いな...

でもこの柄だと
神崎さんにはちょっと可愛すぎるかな?


私はカップを手にフフッと思わず
笑みを浮かべるが
ふと我に返って、カップを棚に戻した。


私とペアカップなんか買っても
しょうがないじゃない...


昨夜のことを思い出して
ふうっと息を吐き、肩を落としていると、

「かよ子さん、お待たせ!!
お腹すいたし、どこか食べに行こうか♪」

紙袋を手に屈託のない笑顔で一色さんがやって来た。


「はい、行きましょうか」


私は沈んだ気持ちを打ち消すように
微笑むとコクンと頷いた。


それから私たちは賑やかなショッピングモールを出て
静かなカフェへと場所を移した。


店内に入ると店員さんに外のテラス席へと案内された。

テラスからは木々に囲まれた広い公園が
見渡せることができる。


「今日はありがとう。
かよ子さんのおかげですぐに決めることができたよ」


 「いえ...
瑠花さんにアドバイスしてもらってましたし...」

きっと、瑠花さんのアイデアを聞かなかったら
迷ってしまってこんなに早く決めることもできなかっただろう..
そういえば、瑠花さんに頼まれていたバレッタを
作ったから休み明けにでも渡さないと..    

「あっ!そうだ!バレッタ..」

私は思い出したように、バックの中から
ラッピングした小さな包みを取り出した。


「これは私が作った髪留めなんですが...
良かったらプレゼントと一緒に妹さんに
あげてください。」


それを一色さんの前ににおずおずと差し出した。
瑠花さんのバレッタを作った時に一緒に作ってみたのだ。
学生さんなので瑠花さんのバレッタよりも少し可愛らしいものにした。


「えっ?いいの?」


一色さんは目を輝かせると
嬉しそうに私から包みを受け取った。



「手作りのものなので、大したものではないですよ?」


「そんなことないよ!
妹も喜ぶと思う。ありがとう!
俺がもらいたいくらいだよ...」


「えっ?」


髪留めを...?


「あっ!女装癖とかじゃないよ?
かよ子さんの手作りのものが欲しいってこと!」


一色さんは照れ臭そうに頭を掻いている。


「そうですか...」


手作りのもの好きとかかな...?


私が首を傾けていると
「あっ!そうだ!俺からもこれ!」
一色さんは先程、お店で買った包みを私の前に差し出した。


「へっ?」


「さっきのブックカバーだよ!
今日、付き合ってもらったお礼に
受け取ってください!」


「そ、そんな...大したことしてないですし...」


「妹は漫画本くらいしか、
読んでるとこ見たことないし、
使わないと勿体ないでしょ?」

「それじゃあ...お言葉に甘えて
ありがとうございます」


私は頭を下げると
一色さんから包みを受け取った。


少し困惑した表情の私とは反対に
一色さんは満たされたように微笑んでいた。

それから、プレゼント選びのお礼にと
一色さんにカフェでランチをご馳走してもらった。

そして、昼食を食べ終わると
一色さんの乗るバスが来るまで間、
二人でカフェの前の公園を散歩することにした。

公園の真ん中には大きな池があり、
その周りは木々に囲まれた遊歩道になっていた。

私達は池の周りを少し歩くと、ベンチを見つけて腰を下ろした。

「そこに自販機があったから、飲み物買ってくるよ!かよ子さんは何にする?」


「じゃあ...温かいミルクティを...」


「了解!!」


一色さんは嬉しそうに、自販機へと走って行った。

目の前には大きな池が広がり、
空は雲ひとつなく、青くどこまでも澄み渡っていた。


あの日も、こんな良い天気だったな...


私は以前、神崎さんと訪れた公園を思い出して少しせつなくなった。


神崎さんは今、仕事をしているのかな...

それとも...今日も凪沙さんと..
私は再び沸き起こるネガティブな感情を
振り払うように、ブンブンと顔を横に振った。


「かよ子さん、ハイ!」


私が顔を上げると一色さんは
柔らかいの笑みを浮かべて
ミルクティのペットボトルを差し出した。


「あっ...ありがとうございます」


私は無理に笑顔を作ると、
ペットボトルを受け取った。


一色さんは隣に腰を下ろすと
私の顔を覗き込んだ。

「かよ子さん、何かあった?」

そして優しい声色で問い掛けてきた。


「えっ?」



「今日ずっと無理してたでしょ?」


自分では隠してたつもりなのに
一色さんには気付かれていたんだ...


「ごめんなさい...」


私は俯くと小さく呟いた。

暫しの沈黙の後、一色さんが口を開く。


「社長が原因?」


一色さんの言葉に私はビクッと肩を震わす。


どう答えて良いのか分からない...


私はうつむいまま、膝の上に置いた手で
思わずスカートをギュッと握った。

その様子を隣でじっと見つめていた
一色さんは再び口を開いた。


「僕じゃ、かよ子さんを慰められないかな?」


「えっ?」


私はハッと顔を上げると
一色さんがが苦しそうな笑みを浮かべながら
私を見つめている。