「ありがとう...
それじゃあ、お粥いただこうかな...」

私の笑顔につられたのか、神崎さんもフッと微笑んだ。


私は土鍋の蓋を取ると
取り皿にお粥をれんげで取り分けてから
神崎さんの前へ差し出した。


「まだ少し熱いので火傷しないように
食べてくださいね?」


しかし、神崎さんはお皿を受け取ろうとしない。


「神崎さん...卵粥、お嫌いでしたか...?」


「いや、好きだけど、こういう時って
食べさせてくれたりとかしないのかなぁって...」


「えっ?」


神崎さんはチラッと目を向ける。


あっ、そうか...

私も昔、お母さんに看病してもらったとき
食べさせてもらったような気がする...


私は自分の取り皿を見つめると
れんげでお粥を少しすくって
フゥフゥと冷ましてから神崎さんの前に差し出した。


「どうぞ....」


れんげを差し出す私に神崎さんは一瞬戸惑いながらも
「いただきます...」
そう言って照れ臭そうにお粥をパクリと食べた。

もぐもぐと頬張る神崎さんの顔がどんどん赤くなっていく。


「熱かったですか...?」


茹でタコのような神崎さんに私は心配になって顔を覗き込むと
神崎さんは真っ赤な顔で口元を手で隠しながら
私から顔を反らした。


「いや...すごく美味しいんだけど...
かよ子さんに食べさせてもらうと胸が一杯になって
食べれそうにないから、やっぱり自分で食べようかな...」


「そうですか...?」


私は取り皿にれんげを乗せて
神崎さんの前に差し出す。


「うん...ありがとう」


神崎さんは頬を赤らめたまま、受けとった。


「ほんとに大丈夫ですか...?」


「大丈夫だよ...
ただ、風邪を引くのも悪くないって思ったかな...」


神崎さんはれんげでおかゆをすくうとパクッと口に入れて頬張りながら
悪戯な笑みを浮かべた。


「ん?駄目ですよ!
ちゃんと治して早く元気にならなくちゃ!
それに仕事もほどほどにお願いします」


「はい」


心配して怒るかよ子に
翼はまるで奥さんに怒られてるようだなと
嬉しそうに顔をほころばせた。


私は怒ってるのに逆に嬉しそうな神崎さんを
不思議に思いながら、首をひねる。

しかし、先程より顔色が良くなった神崎さんをみて
ホッと胸を撫で下ろした。