「ホテルに飾る絵の原案を
何枚か描いたのですが...」
俺はかよ子さんからスケッチブックを受けとるとペラペラとめくった。
かよ子さんはそれをドキドキしながら食い入るように見つめている。
「うん!
どの絵もホテルの雰囲気にピッタリ合ってると思う。
ただ...」
俺はそこまで言うとスケッチブックを閉じて
かよ子さんの前に差し出した。
「これはかよ子さんが描きたい絵かな...?」
「えっ...?」
「僕はかよ子さんに自分の描きたい絵を
描いてほしいんだ。
それが僕の望んでいる絵だから...」
「でも...」
かよ子さんは俺からスケッチブックを受けとるとそれを胸に抱えて浮かない表情をしている。
不安な表情を浮かべるかよ子さんに
俺はかよ子さんの目線までひざまづく。
「かよ子さんなら大丈夫。
自分の絵にもっと自信を持って!」
俺は彼女の瞳を見つめながら優しく微笑んだ。
そう励まして頬笑む俺を
かよ子さんがいつも自分を励ましてくれた
亡き父の面影を重ねていたなんて知る由もなかった。
そしてかよ子さんは柔らかい笑みを浮かべてコクンとうなづいた。
「良かった...」
ホッと安心したように息をつくと
かよ子さんの頭を優しくポンポンと叩いた。