そして俺はかよ子さんの仕事部屋の前につくと、はやる気持ちを抑えてコンコンとドアをノックした。


「はい...」


中から聞こえるかよ子さんの可愛らしい声に
急いできて息を切らした俺の頬も自然と緩む。


ガチャ


「お疲れ様。
絵の方は順調??」


ドアを開けると丸椅子に座ったかよ子さんが
スケッチブックを手にこちらを振り返った。


かよ子さんは俺を視覚にとらえると
「神崎さんっ...」
クリクリとしたつぶらな瞳を
ビックリしたように見開いた。

可愛すぎて今すぐ抱きしめたいが
俺はその衝動をグッとこらえる。


俺はかよ子さんに微笑みかけると
「お疲れ様です...」
とかよ子さんはスッと動揺したように
視線を反らした。

俺はかよ子さんの様子に少し違和感を
感じつつも
ふとかよ子さんの作業机に目を向けた。
すると、作業机の上にはケーキの箱や
お菓子、ジュースが沢山置かれているのに気づいた。


「かよ子さん、こんなにおやつどうしたの?」


「あっ、それは仕事をしていたら色々な部署の方が差し入れを持ってきてくださって...
ありがたいのですが一人では食べきれなくて...」


困ったように呟くかよ子さんに
俺の嫌な予感は的中して
思わずはぁっと息を吐いた。

総司いわく、すでにかよこさんの噂は社内に知れ渡っているらしい。
美人画家でしかもそれでいてシャイなんて男が放っておくわけがない。

「あまり仕事の邪魔をしないように
皆に注意しとかないといけないな...」


「いえ...邪魔だなんてそんな...
皆さん優しくしてくださるので有り難いです...」


少し嬉しそうなかよ子さんに
俺は複雑な表情を浮かべる。


「立花さんも何度か差し入れや
様子を見に来てくださって...
逆に仕事の邪魔になってないか心配で...」

「総司が...!?」

クソッ

総司のやつ俺には最もらしいこと言って
自分は何度も会いに来てんじゃねぇか!

絶対あとでしばく...

俺が総司への嫉妬でイライラしていると
「あの...神崎さん...これ見てもらってもいいですか...?」と、
かよ子さんがおずおずと一冊のスケッチブックを差し出した。