一途な敏腕社長はピュアな彼女を逃さない

私は絵の具を受け取ろうと
手を差し出した。


スッ...


しかし、私が受け取ろうとした瞬間
男性は絵の具ごと手を引っ込めた。

「えっ?」

私は思わず顔を上げる。

「君の名前を教えてよ?どこの部署?」


男性はキラキラと瞳を輝かせて
私の顔を覗きこんで矢継ぎ早に問いかけた。


「えっ...あ、あの...杉崎かよ子と申します...
部署というのはないんですが...
ホ、ホテルに飾る...あの...絵を描いてまして...」


私は急な問いかけに
真っ赤な顔でしどろもどろに答える。


「あっ!やっぱり噂の美人画家さんだね!
今朝、同じ部署のやつらが騒いでたから...
持ち上げすぎだろと思ってたけど噂以上だね!」


男性は嬉しそうに白い八重歯をニッと覗かせて私に可愛らしい笑顔を向けた。


「はあ...」


私はなんて答えたらいいのか分からず
困惑した表情で首を傾けた。


取り敢えず、絵の具を返してほしい...


私はチラッと男性の持っている
絵の具に目を向けたが
「こんなとこでぶつかるなんて運命感じちゃうな」と、なんだか楽しそうで
返してくれる気配はない。