一途な敏腕社長はピュアな彼女を逃さない


「多分...いずれ噂を耳にすると思うんで
先に教えておきますけど...
実は社長、婚約者がいるんです」


「婚約者...」

その言葉にかよ子の胸に痛みが走る。

瑠花ちゃんは真っ青な私の表情を見てオドオドと焦りだした。


「いや、でもこの前婚約者が会社へ来たとき
喧嘩してるっぽかったですし!」


「婚約者の方が会社に...」


さらに暗い顔で呟く私に
瑠花ちゃんはさらに戸惑っているようだ。


「もし社長が駄目でも私がいい男を紹介するので任せてください!
男なんて星の数ほどいるんですから!
一緒に合コン行きましょうよ!」


瑠花ちゃんは任せてっと自分の胸をポンッと叩いた。


「いえ、大丈夫です...
瑠花さんありがとう...」


心配そうな顔の瑠花ちゃんに
私は気を使わせないよう精一杯笑顔を向けた。


それから瑠花ちゃんは気を使ってくれているのか
神崎さんの話には一切触れなかったが
私の頭の中はずっとその婚約者のことで一杯だった。


神崎さんは婚約者がいるのに
なぜ自分に優しい言葉をかけるのだろう...


甘い言葉を囁いたり
キスしたりするのだろう...


いくら考えても恋愛経験が皆無の私には
答えは出てこない


ただたださっきから胸が苦しくて
息を吸うのすらままならない。


昨日...車を買い替えた理由を聞いたとき
将来家族が増えたときの為って言ったのは
結婚が決まってたからなんだ...


私は目頭が熱くなってきて
急いで席を立った。


「瑠花ちゃん、ごめんなさい!
画材道具で足りないものを買出しに
行きたいのでさきに休憩上がります...」

勢いよく立ち上がった私に瑠花ちゃんは目が
点になっている。

「それはいいですけど場所は分かりますか?」


「はい。来る途中にお店を見かけたので
大丈夫です...」

私は沈んだ気持ちを悟られないよう微笑むと急いで食堂を後にした。