「そういえば社長...
榊原グループのご令嬢とのご婚約のお話
本当に進めても宜しいんですか?
私の調べでは
榊原凪沙(さかきばらなぎさ)26歳。

ルックスはモデル並で申し分ないのですが
性格に難ありのようで...」


総司は手にした資料を眺めながら
顎に手を当て眉間にシワを寄せている。


「問題ない。
問題は会社の利益になるかどうかだ。
ルックスや容姿はどうでもいい。
話を進めてくれ」

パソコンを打ちながら、まるで仕事の話をしているような淡々とした口調の俺に、総司はやれやれというように口を開いた。


「まあ、あちらは乗り気のようですが...
ご結婚ともなれば
今までの一夜限りとは違って
毎日顔を会わせなくてはなりませんよ?」


総司の問いに俺は鼻で笑う。


「ハッ。この俺が女と一緒に住めると思うのか?
半日他人と同じ部屋にいるだけでも
ストレスで息が詰まる。
あの女とは見合いの席で
利害関係も一致したから大丈夫だ。
別に籍さえ入れてしまえば
ホテル住まいでいい。
金さえ与えれば文句はないだろう」

俺の性格を熟知している総司はこれ以上言ったところで答えは変わることはないだろうと踏んで話を切り替える。

「はぁ...そうですか...
ではご婚約の話は進めますね。
只今、建設中のホテルですが、
資材の搬入の遅延で
工期が当初の予定より少し遅くなっしまいましたが、オープンまでには問題なく完成できるとの事です。」


「そうか。
明日の夕方は予定入ってないだろ?
一度、自分の目で
ホテルの進捗具合を確認しておきたい」

俺は仕事の話にようやくパソコンを打つ手を止めた。


「しかし社長...

先日運転手とやり合って
辞めさせたばかりではありませんか。
あいにく、私も明日は来週の定例会議の準備をしないといけませんし。
営業の人間も金曜の夜は取引先との接待で
同行できるものはおりません。」


「...別に運転なんて自分でできる!
現場のものに明日の16時に視察に
行くと伝えておいてくれ」


「承知しました。

あの近辺は最近道路も開発されたばかりで
ナビも周辺の表示がされないと思いますので
地図をコピーしておきますね。
くれぐれも迷いませんようご注意ください」

「わかったわかった。」

俺は総司の忠告を適当に受け流した。