「貴女はまだ
目を覚ますべき時ではないのです」
温度のない、平坦な声。
たしかにわたしは最初
「起きてはいけません」そう言われた。
「僕は貴女のすべてがほしい」
「……」
「たとえ、貴女の大切なものを奪い、泣かせ、嫌われようとも。佐野 朝佳という人間の唯一無二になりたいのです」
男がベッドから降りる音がした。
どこか切なく聞こえるスプリング。
あまりに無茶で切実な願いに、不本意だけど胸が締め付けられて。
「僕は貴女から、何もかもを奪います。
そして、空っぽになったその体に、この狂いきった愛を注ぐのです」
起きたときと同じように、目もとを
手で覆われた。
その手はかすかに震えていて
「目を開けてください。朝佳さん。眠ってしまう前に、貴女の大切なものを最後に見ておきましょう」



