クネクネと脇道を曲がって曲がって、そして、薄暗い細い路地に足を踏み入れたとき。
ぱっと、漸く手を離されて。
すぐにガクガクの両膝にその手をついて、ハァハァと、呼吸を整える。
距離は500メートルにも満たなかったと思うけど、マスクをしているからか、余計に苦しい。
脇腹が攣って痛い。
久しぶりに、こんなに走った…
「おーい」
少しも乱れてない軽やかな声が頭上から降り注いですぐ、目の前で男性がしゃがみ込んだ気配がした。
膝をついたまま顔をあげれば、予想以上に近くで対面した美しい顔に不覚にも息をのむ。元いた環境が環境だから、整った顔立ちの人間なんて見慣れてるはずなのに。
ウルフカットが映える色白くほっそりとした長い首、シャープな顔、眉間から鼻先までまっすぐ伸びた高い鼻筋。何よりくっきり二重瞼のアーモンド型の目元は、色素の薄い下三白眼で底知れない色艶を漂わせる。
「ほらほら、」
「な、!」
何食わぬ顔をした彼は、私のマスクに人差し指をかけ勝手にくいっと鼻の下までおろした。
「苦しいっしょ、これ」
小首を傾げて、軽薄に目を細める。
やっぱり怖いくらいに艶めかしいその表情に、慌てて彼の手を払い顔を背けた。
「勝手にやめてください」
冷静にマスクを直しながらも、だらだらと冷や汗をかいてしまう。
バレてる?バレてない?
何を考えているのか、全く読めない。
なに、この人…
「そんなに警戒しなくても」
喉の奥でクッと鳴らした愉しげな声に、勝手に心臓が跳ねて嫌になってしまう。さっき小銭を落としていた鈍臭そうな男とはまるで違う。
未知なる危険な香りに抗うように、遠慮なく眉間に皺を刻んだ。



