「…あの、これも…」


すっと差し出した手と一緒に発した声は、ボソボソと聞こえにくくなってしまった。


それでも、俯いていた男性は気がついてくれて。

シャープな顔があがり目が合いそうになったその瞬間、慌ててそっぽを向く。


帽子を被ってたって、マスクをしてたって、目元で『月乃寧々』だとバレてしまうこともあったから……


でも、今のは逆に怪しかったかもしれない。


どくどくと、迫るような拍動を感じる。

ゆっくりと、しゃがんでいた彼が立ち上がったのが視界の隅で分かった。

もしかしてバレた?なんて、自分でも呆れるくらい、この時の私は自意識過剰だった。

でも、それほど異常に世間の目が気になって、ビクビク怯えてばかりいた。



「ありがとうございます」



たった今までとは違う丁寧な返しに、マスクの下で小さく息を吐く。

少しばかり安堵しながら「いえ」と返す代わりに、俯いて首を小さく振る。



受け取ろうとする骨ばった手のひらが伸びてきて、そうして、当たり前のようにそこに10円玉をのせようとしたとき。



「…っ、!?」


唐突に、ぎゅっと手首を掴まれた。

渡すはずだった10円玉がまたチャリンッと音を立てて地面に転がる。


驚き思わず見上げた先、予想以上に背の高かった男性と今度こそ視線がぶつかった。


見下ろされる妖艶な下三白眼に、何故か鼓動が大きく反応する。



「転ぶなよ」

「……え、」