一つ落ちた音に続いて、チャリチャリチャリンッ…と、明らかに複数枚の小銭が地面に転がったであろう音が響いた。
お金が地面に落ちた音って、なぜか反射的に振り向いてしまう。それは私だけではなくて、割と殆どの人がそうだと思う。こんなに盛大なら、尚更。
だからこのときも、ぱっと反射的に振り返った。隣の記者の人も他の信号待ちの人も、その場に居た全員。
「あらあら、お兄さん大丈夫!?」
「あーすんません…」
振り返った先で小銭を拾ってくれるお婆さんに、へこへこと頭を下げている長髪の男性がいた。案の定、その男性の足元付近に何故だか小銭がばら撒かれていた。
男性はロングウルフカット、艶めく黒髪に隠れた横顔はよく見えない。
ただ一般人ではないと強い先入観を与えるほどに、気怠げでも色艶溢れる低い声、ダボっとしたフレアデニムを履きこなす圧倒的な頭身の彼は妙に惹きつけられる存在感があった。
「おーい、こっちにも転がってきたぞ〜」
べったりくっついていた記者のおじさんも、流石にこの時は本当の良心を見せて自分の元へと転がってきた100円玉を拾って差し出していた。
「すんませーん、あざーす」
彼が気怠げに頭を下げるたびに、覗くフープピアスの黒がきらりと控えめに耀く。
「(……そんなに沢山の小銭、ポケットに直にいれてるからだよ…)」
その人は拾ってもらった小銭を自身のパーカーに雑に突っ込んでいた。
心の中でお節介にも心配しながら、その彼から視線を外したとき。
ふと、自分の足元にある10円玉が目に入る。
特に何も考えず、ほば無意識だった。
周りの人達と同じようにそれを拾って、おずおずと男性に近づいた。



