「いらっしゃいませー」


ぐいっとキャスケットのツバを下げて、顔を隠すように俯いた。

耳には、やや古めの洋楽。

氷のように冷え切った指先が、途端に暖かい空気に触れてじんわり痛む。

買い物カゴを引っ掴んで、レジにいる店員の目から逃げるように左へと足を進めてすぐに後悔。





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バッと顔を背けた。鼻の奥がツーンと痛い。

急いで穿いてきたスニーカーがぼやぼや滲む。

悪意ある文字が並んだ幾つもの週刊誌から逃げるように、酒コーナーへ。


とにかく、手当たり次第ぶち込んだ。


「(……こんなの、正気でいたほうが頭おかしくなる)」



何日か分の食品もぎゅうぎゅうに詰め込んで、そそくさとレジへ持って行った。

顔をあげることも、声を出すこともできなくて。

覇気がない店員の声にひたすらに首を振ったり頷いたりで、ぱぱっと電子マネーで支払いを済ませてパンパンの袋を受け取る。


「(……袋、二枚って言えば良かった…)」



持ちづらいそれに苦戦しながら、店内を出てすぐ。


「あのーちょっと良いですか?」



鼓動と一緒に肩が飛び跳ねて、透かさず思いっきり顔を伏せた。