けれど平穏な日々は、長くは続かなかった。それから三ヶ月も経たぬうちに、春野が暇をとってしまったのである。
真紀にとって、それはとても寂しいことだったが、止められるものでもなかった。春野の父である大宰少弐が、疱瘡を患ったと報せが来たからだ。
少弐は遠く離れた筑紫にいる。このまま死に別れたりなどしたら、彼女はどれほど後悔するだろうか。幾度なく辛い目にあってきたとはいえ、真紀は肉親の死に目には合うことが出来た。それなのに彼女を引き留めるなど、許されることではない。
「……姫さま。本当に申し訳ありません、絶対に戻ってまいります」
涙ながらに頭をさげて、春野は迎えの牛車へと乗り込んだ。
遠ざかっていくその姿を、真紀は邸の外の堀川小路まで出て、いつまでも見送っていた。
いよいよ人少なになって、あれこれと指示を出せる女房の居なくなった屋敷は、みるみるうちに荒れ果ててしまった。

