寒い日だった。
年頃になる少女は一人、雪も降りそうな夜に外に出た。

街の外れの広場まで来ると、一人の男が空を見上げて立っていた。

「…何をしているの…?」

恐る恐る声を掛けると、男はこちらを見て冷たい声で言った。

「お前こそ、こんな日に一人か…?」

「…今日も私の家は誰も帰ってこないんです…。両親とも、忙しい、って…だから……」

「ほう……」

男は悲しそうに言う少女に近づき、いきなり少女を抱きしめた。

「きゃっっ!?」

男の身体はまるで氷のようだった。男は笑いながら少女を抱きしめて言った。

「馬鹿な娘だ…俺に抱きしめられたまま凍え死ぬがいい…」

少女は震えながら言った。

「あなたの身体…とても冷たい…。早く…暖めないと…。」

「何…?」

「…こんな所に一人ぼっちで…寂しかったでしょう…。」

「何を言っている…俺は…っ…」

少女は震える腕で男を抱きしめ返した。

「寒かったでしょう…?私で良かったら…このままでいます…。あなたが寒くないように…」

「…そんなことをすれば、お前は死ぬぞ…!」

男の身体は更に冷たくなった。

「あなたが…寒く…なくなるなら…。私が…少し…の間…そば…にいて…寂しく…なくなる…なら…」

少女は気を失い、男に抱き止められた。

「…馬鹿な娘……俺は……」


騙され、捨てられ、この世を呪い、誰に見向きもされぬまま心も体も凍りついて……


「本当に…馬鹿な……」

男は少女をそっと広場の隅に寝かせ、もう一度、今度は少女が起きぬようそっと抱きしめた。

眠る少女の頬に、冷たい水の滴が落ちた。

「…解けていく…溶けていく…それなのに悲しみが……」

冷たくなっていた少女の体はまた、熱を帯び始めた。

「もっと早く…出会いたかった…」

男は悲しげに呟き、少女の頬に優しく触れると男の身体は霧のように消えた。


少女が目を覚ますと、広場は花が咲き始め、少しずつ暖かくなっていった。

「…あの人は…?」

男のいた場所をみると小さな花が揺れていた。

「…これならあの人も、寒い思いをしないで済むわ……」

少女は暖かくなった自分の体を抱きしめ、男を想う。

「あの人がもう寂しい思いをしませんように…」

花も咲き暖かく、明るくなった広場を、少女はゆっくりと歩いて家に向かった。