───────────湊side






「行かせて良かったの?」





月姫さんを見送ったあと、心音さんが僕を呼び止めた。





嗚呼、この人は気づいているんだ。






「はい。」






僕の気持ちを。





やっぱり長年ここに働いているだけあって、観察力が凄い。……蒼空さんも、心音さんも。






「リフレッシュさせることは、湊ちゃんでも出来たことよ?」





「いえ、僕じゃダメなんです。






月姫さんが……心の底から好きだと思う人でないと」






僕だってそうだった。





悩んでいたあの時、




くれた言葉。

優しく微笑むあの笑顔。

傍に居てくれたあの時間。




好きな人がしてくれたその全てのおかげで、自分の中にあった焦りと不安は浄化されたんだ。






「僕じゃ力不足になってしまいます」





だから、迷いなんてものはなかった。




月姫さんの焦燥感に駆られた心を浄化できるのは僕じゃない。



僕には、出来ない。







「笑顔でありがとうと言ってくれたら、それでいいんです」






あの人が笑顔になれるなら、



僕はなんだってする。







「ふぅん?」






心音さんから手が伸びてきたから、また抱きつかれると思って身構えた。……が。






「湊ちゃんは追うよりも追われる方がいいと思うなぁ」


「っ、」






幼い子供を撫でるような、


そんな手つきで頭を撫でられる。






そして







「キミは、優しすぎる」






とても優しい目をして



僕の心見透かすように微笑んだ。






「ほら、あの子とかどう?」



「え…?」






いつもの笑顔に戻ると、開いたままのドアの先を指差す心音さん。






その先には、見覚えのある人が。





パタパタと急ぐようにしてここを目指してやってきたのだろう、






「あ!

浅川くーーーん!!会いに来たよ~!!!」






震える手でカップケーキをくれた子。


毎日飽きずにパン屋へやってきた子。


僕の犬嫌いを克服させてくれた子。


心の声がダダ漏れの子。








「綾瀬さん……」








その笑顔を見るのは、半年ぶりだ。