「だから、ちゃんと…聞いてて」
「……………うん。」
1度、息を吸って──…
「……遠距離は正直不安でいっぱいなの。だけど、蒼空さんと約束したから、その約束に向かって頑張るし、ツラいことも乗り越えて行けると思う。
だけどそれは今の私の気持ちで、もしかしたらこの先不安に押し潰される日が来るかもしれない。耐えられなくて、悩んで泣いて、どうにもできなくなるときが来るかもしれない。
…………だけど、分かって欲しい。
私は蒼空さんの事が大好きで、今ここで永遠を誓ってもいいほど好きで、その気持ちはこれから先絶対変わることはないよ。
例え私が身勝手な事を言ったとしても、それは本心じゃない。
……もしもそんな時があったらどうか───」
クシャッと紙を握る手に力が篭もる。
「もう何も言わせないくらいに、
苦しいほどに強く抱きしめてほしい。
蒼空さんに抱きしめられると、悩みも全てゼロになるから──…」
少しだけ声が震えてしまったけど、ちゃんと最後まで言えてよかった。
「…………これが、私の、依頼です。」
………すごく緊張した。
自分の気持ちを伝えることってやっぱり慣れない。
上手く伝わっただろうか?
会いに来てってことなんだけど…
紙をしまおうすれば、
それはすんなりと蒼空さんの手に渡り──
「───要は、抱きしめてくれってことね。了解」
ふわり、蒼空さんに抱きしめられた。
とても優しく、ギューっと。
「てか、この紙事務所のやつじゃねーか」
「1枚だけ拝借させていただきました…」
カサッ…と後ろで紙を触る音。
きっと、今、紙を見てる。
「……ふぅん。」
再びギュッと抱き寄せられると
「こんな紙なくたってちゃんと会いに来るよ。
お前は不安を取り除くため。
俺はお前に癒されに。
だから
会えたその日は、
最高で最強に俺を癒して」
「っ、」
頭を優しく撫でられる。
いつもと違って、髪の毛が乱れないような、そんな優しい撫で方。
ゆっくり顔を上げると、
視界に映るのは
曇りない笑顔を浮かべる彼がいて
「───うん。約束する!」
ギュッ。私も蒼空さんの身体に腕をまわした。
誰もいない教室。
広い広いその教室の教卓で
私達は笑顔を浮かべてキスをした。
「蒼空さん、卒業おめでとっ!」
やさしくて穏やかであたたかい、
そんなキスを。