「ブレスレットを捨てたあとも、私は彼のことばかり考えました。……それはもう走馬灯のように。


彼と出会った頃のこと
楽しかったこと
悲しかったこと

全てが良い思い出で、

思い出せば思い出すほど、彼に会いたくてたまらなくなった。



私にはもう彼しかいないって。



そのときに、サプライズなんて苦手だった彼から貰ったブレスレットを捨ててしまったことに酷く後悔して……」





ポロッと涙を流す彼女は「すみません…」と拭う。





「もう…絶対に捨てません。」





そう言った彼女は何か覚悟を決めたような。




安堵の表情と悲しみで溢れたその表情に
私の胸もグッときてしまった。





……遠距離はやっぱり簡単なものではないのかもしれない。





"五年もの間があるのだから、彼にもいろんな出会いがある。きっと私のことなんて忘れてしまってる。"





その言葉がやけに私の心を不安にさせた。




私の彼も、あと少しで遠くに行ってしまう。




私のいないその土地で、蒼空さんもいろんな出会いがあるだろう。……カッコいいから余計に心配になる。





「本当にありがとうございましたっ……今こうやって手元にある事が凄く嬉しいです。」





玄関まで送った彼女の手には、

しっかりブレスレットが付けられていた。




Sのチャームがキラリと輝く素敵なブレスレットが。









「彼女の気持ち、届くといいね」





去っていく彼女の後ろ姿を眺めてそう呟いた。



私の隣には蒼空さんがいて





「きっと届いてるよ」


「……うん、」


「…………………」





スルリと私の手を掴まれると


拭いきれなかった涙が地面に跡を残す。





「……泣き虫。」


「だっ…て………」





優しい目をしているけれど


微笑む彼の顔は少し困った表情で





「遠距離、不安になったんだろ」


「っ…………」




私の思っている事を的中させる。




本当にすごいや、蒼空さんって。