3時間ぶりにインターホンが鳴った。
今日はやけに来訪者が多い。
ひっきりなしに無機質な音が響き、幻聴まで聞こえてきそう。
夜が更け、雨が降り出してからは、めっきりいなくなったと思っていたが……。
モニターに映るのは、慣れ親しんだ、幼なじみの顔。
染めたての金髪は濡れに濡れ、ぺちゃんこにつぶれている。
せっかくのイケメンが台無し。
捨てられた子犬よりひどい有様だ。
本降りになった雨空の下、彼は、相棒のマウンテンバイクにまたがって駆けつけたのだろう。
はよ免許取れよ、とせっついたら、別にいいだろチャリマニアなんだよ、と意味のわからない言い訳をしていたっけか。
あのときと同じ仏頂面で、彼はキッと睨みをきかせる。
その表情はまさに、ヤのつくそれだ。
「どういうことか、詳しく説明してもらおうか」
「……だせえかっこしてんな」
「うっせー」
だせえ面して、だせえジャージ着て。
足元だけ一丁前にブランド物の革靴を履いて。
だっせえよ。
体裁を気にしないにもほどがあるだろ。
やれやれと首を振ると、きゃんきゃん吠えられた。
近所迷惑だ。今朝からずっと、迷惑をかけてるし、かけられている。
「……まあ、入れや」
独りになったらなったで物寂しくなる。
年頃の乙女みたく情緒が不安定だ。
ピンポンと、3時間ぶりに鳴った音色は、なぜだか少し胸にきた。
孤独の空間を脱するのにちょうどいい。
その日、はじめて、扉を開けた。
「なあ、どうなってんだよ……」
「あー……、説明、な。……説明か。ぶっちゃけ俺もそこまで知らねえんだよなあ」
男の一人暮らしには最適な1LDKのアパート。
築3年の家は、俺の手によって随分使い古されている。