何の前触れもなく、彼女は言ってのけた。




「わたし、春日野 妃希は、本作をもって芸能界を引退します」




淡々とした口調で。
悠然とした様で。

つらつらと言葉を並べていく。


もしかしたら宇宙語を話しているのかもしれない。そう本気で疑うくらいには動揺しているし、頭が回らない。



引退。

その2文字が思考にずしんとのしかかり、受け止めきれずに沈んでいく。



隣で、彼女は、ほほえんでいた。

晴れやかな感情をにじませた表情を、正面のカメラがばっちり収める。


ゆるやかに垂れていく目元は、あどけなく。

ひかえめにほぐされた口許は、どこか儚げで。


少女であり、女性である──まさに、彼女の演じたアオイのようだ。アオイと同じ、子どもと大人の境に立つ顔つきをしている。



そういえば、彼女は、おととい18になったばかりだった。


まだまだ成長していく年齢だ。

すでに主演を張ることはめずらしくないとしても、10代の彼女には無限の可能性がある。今後どのような役者になっていくのか、次はどんな顔を見せてくれるのか、誰もが期待していた。


引退はあまりにも早すぎる。