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蝉が、啼く。
最近は深夜でも猛暑で、脳みそが溶けそう。
仕事帰り、コンビニで買ったばかりのアイスキャンディーも溶けてきた。
焦って食べたら頭がキーンとした。
溶けかけの脳みそ状態で固まったらどうしようか。
都心から少し外れたビルに立ち寄った。
汗のにじむ首元に、冷たい風が吹く。
最上階まで行くと、あれほど存在を誇張していた啼き声は断たれた。
小さな映画館。
客はあたしの他に、1人、2人くらいしかいない。
眠そうな店員からチケットを受け取り、無駄に広いロビーの隅っこに腰かけた。
まだ時間はある。
線ありのイヤホンをつけ、お気に入り登録してある動画を再生した。
終盤まで早送りする。
これまで何十回、何百回と観てきたシーンにたどり着くと、あの、鈴の音のような声がした。
『あ、あの、わたし……っ』
沈みかけた夕日を一心に受け、少女は身を震わせる。
アヤだ。
ひっつめ髪や分厚いメガネをやめ、素のまま。モデルのためじゃなく、自分で自分をかわいくさせた姿。
ヘアメイクが凝っていなくても、本来の美貌が光っている。
そんな彼女の前に佇むのは、同じく仕事終わりのユウダイ。
ブランドの看板を背負っているようなカジュアルな衣装を着ている。
そういえばこの服、販売してすぐ売り切れたんじゃなかったっけ。